思い出の整理と言ってしまうのも、なんだかキレイすぎて性に合わないので、ただ好きに書こうと思った。ただ、ただ、書き殴ってやろう、と。

実は、昔のことを思い出すのは、もうほとんど難しくなってきている。特に、学生時代のことは、なおさらだ。自分のことのくせに、人生の重みともいうべき経過時間がそれを許さない。まるで、時間とともにだんだん変色していく昔の銀塩写真のようだ。時とともに、淡い黒とくすんだ白になって、最後には、肉眼では判別できないような、色と呼べないくらいにまで退化してしまうのだろう。そういうふうに考えるとき、人間は時間に対してなんと無力なことか。それならば、なおのこと何かに残しておくこと、形あるものにしておくことは、意味のあることだと気づいた。それこそが時間に対して、抗《あらが》うことのできる人間が持つ唯一の手段。

あやふやな記憶も、何かの拍子で、断片的にだが、突然、鮮明に蘇《よみがえ》ることがある。人生の記憶というものは、生まれてから、いや生まれる以前からかもしれないが、見たもの、聞いたこと、触った感触、そして、匂いや味覚までもが、現在に至るこの瞬間まで、ずっと脳みそのどこかに刻まれ続けていて、実は、忘れた(消えた)のではなくて、思い出せない(引っ張り出せない)だけなのだというふうには考えられないだろうか。欠けている記憶は、必ずといってよいほど、自分に都合のいいように、美化される。それは、なんとなく寝ている間に見る夢に似ている。あるいはまるで、監督兼脚本家兼出演者になって映画を製作しているようなものだ。

ここに著《あらわ》す物語は、自分の半生を元に綴ったものである。しかし、公開することを前提に書きだすと、できるだけ正確な事実だけを記録していくことがふさわしいものではないし、正確な事実のみで構成されているものは、他の登場人物に迷惑がかかる可能性があるので、当然、自粛せざるを得ない。したがって、この物語は、一部に紛れもない事実を含んではいるが、大部分は虚構であることをお断りしておく。

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